特別寄稿
ジャズ・コンボ「Jazz Pal」リーダー 丸杉俊彦
私はジャズトランぺッターです。少なくとも自分ではそう思っています。しかし、これからお話しするのはバロック音楽のことです。実は私は、バロック・アンサンブルでリコーダーを演奏しています。どうしてこんなことになってしまったかというと、バロック演奏とジャズ演奏には不思議と共通点があるのです。 ジャズ演奏の醍醐味はアドリブ(即興演奏)です。テーマを演奏した後の自由な空間を音で埋めて行く瞬間ほどわくわくすることはありません。 私は長らくクラシック音楽は譜面に書かれた音符を正確に美しく演奏するものだと思っていました。ところが古楽器によるバロックのアンサンブルをやってみてびっくり。チェンバロ(鍵盤楽器)の右手の音符は書かれてなくて、下に書かれている数字(ジャズで言うコード記号)に合わせて、なんと即興演奏するのです。これってジャズみたいではないですか。
楽譜どおりではない自由さも リコーダーなんかの旋律楽器の場合もそうなんです。楽譜通りではなく、自由に装飾を入れて演奏するのが普通で、リピートした時などは同じ装飾を入れることはまずありません。何通りか、こっそり用意しておいて共演者や聴衆を飽きさせない努力が必要です。これってジャズといっしょじゃないですか。 そこでなぜ即興演奏ができるのか。だれでも天才作曲家のように創造的な珠玉のメロディが次々と浮かぶ訳ではありません。そこにはスタイルという秘密があるのです。これもバロックとジャズの共通点です。バロック音楽で、例えば舞曲のサラバンドを1曲演奏出来たら他のサラバンドも同じ要領で演奏可能だったり。作曲者がフランス人だったら、フランス風の装飾を入れるとしっくりくるとか。知れば知る程楽しくなるのがバロックアンサンブルです。 バロック音楽が作曲された当時使われていた古楽器を用いて、繊細で素朴な音色で演奏するのも楽しみのひとつです。現代人の耳にはかえって新鮮だと思います。「リコーダーだなんて…」って馬鹿にできないですよ、ほんといいんだから。
10月7日(日)18:00からコンサートを行なう「アンサンブル30」のみなさん。(真ん中が丸杉さん) 場 所:明治安田生命ホール(富山駅前) 入場料:2,000円 全席自由