学生時代の思い出
総務部庶務課 ハンドルネーム ナビゲーション(60代・男性)
私は学生時代、実習生として船に乗っていました。なかなか出来ない経験を多く積ませていただきましたが、その中で忘れもしない出来事があります。それは、時化(しけ)に遭い遭難しかけた事です。それも、自分の成人式の前に…。 舵取りに無我夢中 東京の晴海ふ頭からハワイ・ホノルルへ出港したのは1月初旬、あと3日で船上での成人式を迎えようとしていた1月中旬の出来事でした。午後から少しずつ風が強くなり、低気圧が接近してきていることは分かっていました。 夕方から船の傾きも激しくなり、自分が当直の交代の為にデッキに向かった時には、多分30度くらいは傾いていたと思います。左右に分かれて当直の交代をするのですが、傾いた時の自分の目線が反対側にいる仲間の腰辺りだったと言えば、想像つくと思います。デッキの上では歩くことさえも厳しく、張ってあるロープをつたって当直場へ向かいました。船尾から前を見ると、風上側に当たった波が風下で待機している実習生を飲み込んでしまうのではないかと感じるくらいでした。 通常の舵取りは2名で行いますが、荒天候の場合は4名となります。私はその時、操舵手(そうだしゅ)(※1)の当番が当たっており、コンパスと風向計を見ながら、「風上に〇回転、風下の〇回転」と指示をだしました。指示を間違えれば、総トン数2000トン超の実習船が転覆する可能性だってある訳ですから無我夢中です。この日の操舵手の実習時間は、たかが1時間強ではあるのですが、なんと長かったことか。遭難するかもと覚悟したくらいです。 嵐の後の静けさと水面の美しさ 次直の当番へ交代する時間には、すでに時化(しけ)が過ぎ去っており、海はべた凪(※2)のようでした。空には月が煌々と輝き、星が瞬いていました。航海にでて、海の上でのべた凪はとても珍しいのです。30〜40分前の出来事はいったい何だったのか、夢を見ているようでした。その後、無事、船上で成人式を迎える事が出来たのですが、なかなか出来ない経験だったこともあり、今でも鮮明に覚えています。先日、船員だった父親の命日を迎えたこともあり、改めて健康で生きていられることに感謝しました。これからも、一日一日を大切に過ごしていきたいと思っています。 (※1) 操舵手(そうだしゅ)とは、船の舵を操作して、一定の方向に進ませる人 (※2) べた凪(べたなぎ)とは、風が全くなく、海面に波がないこと