夏…インドの砂漠での一夜
総務課 ハンドルネーム 別段ひとり
夏が来るといつも、砂漠で過ごした一夜のことを思い出します。インドでのことです。 インドとパキスタンの国境ちかくにある、ジャイサルメールという小さな町は、ラクダに乗って砂漠を観光できる「キャメル・サファリ」で有名です。町からジープで砂漠まで行き、そこでラクダに乗りかえて、砂漠の村を巡ったり、砂丘でサンセットを眺めたりすることが出来るのです。
案内は砂漠の民(デザート・ピープルというらしい)がしてくれます。わたしのときはバティムという25歳の男性でした。まず彼の家(といっても砂漠の隅っこに、木の枝と枯れ草で作った、3畳ほどの小さな小屋)でチャイ(ミルクティーのような味のインドのお茶)をごちそうになって、それからラクダに乗って砂漠へ出発しました。 ラクダは、乗ってみるとよくわかるのですが、意外と視点が高く、遠くまで見渡すことができます。激しい揺れがあるわけでもなく、乗り心地は意外と悪くありません。ただし、鞍にタオルを巻いておかないと、20~30分ほどでお尻の皮がむけてしまいます。わたしも、もちろん被害にあいました(笑) 今夜、俺を一人にしてくれ!? 砂漠は壮観でした。砂がきらきらと輝いて、不思議な明るさを体験しました。表面に見える風紋は絶えず形を変え、いつまで見ていても飽きません。湧き水のある場所は貴重な休憩場所で、ラクダたちが集まって水を飲んでいます。ときどきは枯れ草や岩場もあって、そこは人間が主にトイレとして使用しているようです(笑)。
わたしはとにかく砂漠の奥深く、だれもいない場所まで行きたかったので、道なき道をどんどん進んでいきました。なぜなら、わたしにはほかの人とはちょっと違う目的があったからです。 わたしは、周囲にまったく誰もいない砂漠のどまんなかで、たったひとりで一夜を過ごしたかったのです。バティムには、夕御飯のベジタブル・カレーをいっしょに食べているときに伝えました。 (ここからは、一応英語です) 「ねえねえ、おれひとりでここに泊まりたいんだ。だからバティムはいちど帰って、明日の朝にまた迎えにきてくれない?」 「なに言ってるんだ。無理だよ。ここがどんなに危険なところかわかってるだろ?」 「そこをなんとか頼むよ。」 「無理だ、無理だよ」 押し問答はこんな感じで長々と続きましたが、最後はバティムが根負けして帰って行きました。置いていったのは布団を4枚、テントはありませんでした(笑)。 地平線から溢れ出る太陽 砂漠の夜空は明るく、想像していたような闇はありませんでした。まわりに人工の明かりがまったく無いせいか、月や星が降るように輝き、流れ星もたくさん見つけられました。あんなにたくさんの星をいちどに見たのは生まれてはじめてでした。 でも、夜明けはさらに印象的でした。ふつう夜明けといっても、普段の生活では特に意識していないせいもあって、気が付いたら太陽が顔を出しているものです。ところが、砂漠の夜明けは、地平線の向こう側に太陽がいるのがわかるのです。その部分だけ空が深い青色へ、そして黄色へと変化していき、やがて太陽の光が溢れ出てくるのです。わたしはあの光景をいつまでも忘れないでしょう。 それから、もうひとつうれしかったことがあります。朝、バティムがちゃんと迎えに来てくれたことです。これで生きて帰れるな、と心の底から安堵しました(笑…汗)。