ホワイト・デーの記憶
総務課 ハンドルネーム 顔面蒼白
私が、「ホワイト・デー」と言うものがあると知ったのは、大学生になったある日。 言うまでもなく、「バレンタイン・デー」にチョコをもらったお返しに、男性から女性に御礼のプレゼントを渡す日ということになっている。思いに応えられるときと、そうでないときとは、プレゼントの内容が違うらしい。 中学生時代までは、バレンタイン・デーになるとさりげなく机の中・下駄箱の中などに目を配ったりしたものだが、いつも空振りに終わっていた。友人のA君は、数えきれないくらいのチョコを、さりげなく当たり前のように持っている。自分は、たまに女の子からもらうことがあっても、典型的な「義理チョコ」で、全員に配られていることがわかって、がっかりだった。 高校時代、彼女がいないということに特に違和感を感じていなかったのは、自分のまわりの友達にも彼女がいなくて、自分だけ特別の存在ではなかったことと、仲間の趣味が、みんなそろってスポーツで、それらに夢中だったためらしい。 女子大の学園祭で気になる人が 大学に進学して、ようやく一人の下宿生活にも慣れ、行動範囲も広がりはじめると、近くの大学祭巡りを始めた。 ある女子大の学園祭で、そちらの女子大生と知り合い、意気投合した私は、かなりテンションが上がり、つい成り行きで、強烈なギャグ・パフォーマンスをやらかした。今では汗顔物なので詳細は差し控えさせていただく。 学園祭を運営している関係者の中に、なんとなく気になる女性がいた。女性の名前や電話を強引に聞き出したにもかかわらず、そのあと、いざ電話の前にいくと「簡単に断られるのでは」と気後れがして、電話ができずに尻込みの毎日を送っていた。 数週間の後、一大決心をして電話すると、意外にも例のパフォーマンスが功を奏してか、「説得」に大成功。こころ浮き立つ生活が始まった。 その翌年のバレンタイン・デーには、彼女からの本命チョコをゲット。「失敗を恐れていては、前進しないぞ!」などと悦に入っていたため、つい調子にのってしまった。 ある機会に、彼女の友人とダベッていたとき、「バレンタイン・デーにチョコ欲しいなあ」と口をすべらせてしまった。本気で言ったわけでもなく、軽い冗談というか、話の流れを冗談でかわした程度の言い方だったのだが、本当にチョコを貰ってしまった。 彼女の友人は、当然「ホワイト・デーには何かが…」という想いがあったらしいのだが「ホワイト・デー」という、この世の「忌まわしき」風習をまったく知らなかった私は、もう頭の中からチョコを貰ったことは、消えてしまっていた。 数日後、私の彼女から「あの子に『バレンタイン・チョコが欲しい』っていったんですってね。あの子ったら、あなたにせっかくチョコをあげたのに、ホワイト・デーのお返しがなくて、がっかりしたってよ」という、背筋の凍るような電話があったあと、彼女との連絡は途絶えてしまった。 私の口が重くなったのは、あれからだ。