11月18日 「土木の日」
技術顧問 明地 一男(60代・男性)
「土」「木」の2文字を分解すると「十一」と「十八」になることと、土木学会の前身である「工学会」の創立が明治12年(1879)11月18日であることから、11月18日を「土木の日」と制定したそうで、11月18日から1週間を「くらしと土木の週間」として、土木学会を中心に一般の方を対象とした展示会やシンポジウム等の各種イベントや活動が展開されています。 さて、「土木」とはどんな意味なのでしょうか? 欧米の「Civil Engineering(市民工学)」という学問を、18世紀に東京大学で「土木学」という言葉に訳したことにより「土木」という言葉が日本で使われるようになりました。紀元前2世紀、中国で書かれた書物の中の「築土構木」という言葉を引用したそうです。しかし今は、学術機関での土木工学科という名は消えて、社会基盤学科、社会環境工学科、地球工学科に変わっています。これは土木工学が「Civil Engineering」全体を代表していないこと、建設材料としての「土」と「木」は、前近代的であること等からです。 そもそも、土木工学とは道路、鉄道、河川、上下水道、港湾、都市計画等、社会基盤の整備や機能維持を通じ、国民生活を安全で豊かにする学問なのです。 私の土木人生を振返ってみる 私は、地元の電力会社に土木技術者として就職し、水力発電所の計画・建設・保守、原子力発電所の建設に携わり、各種発電所に係る環境アセスメント等も担当してきました。今回、「土木の日」という事で、現場業務を中心に振り返ってみようと思います。 まず最初の現場(20代後半の独身時)は、白山国立公園に位置し一般水力の水路式で日本一の落差577mを有する尾添発電所建設でした。標高1100mでのダム、トンネル工区を担当し、ダム設備の構造計算、配筋図(※1)の作成に没頭しました。当時は、構造計算ソフトやCADソフトもなく、全て手計算、手製図の時代でした。この現場では、構造計算と製図に従事し、『土木の基礎』を学びました。
二番目の現場(30代後半の単身赴任)は志賀原子力発電所1号機建設です。公共道路から発電所敷地までの道路の新設(延長約5km)と取水設備の詳細設計・施工を担当しました。降雨時の濁水処理が課題でした。工事区域が細長いため、いくつもの集水路、濁水処理設備を設置し、雨が降れば、深夜でも現場に飛んでいって濁水を工事区域外に流出させないよう駆け回り、地元からの苦情もなく竣工した時は、安堵と達成感に浸ったものです。 この現場では、『土木の環境保全の精神』を学びました。 三番目の現場(40代前半の単身赴任)は手取川水系の既設水力保守部門で、その改修が課題でした。大正、昭和初期に建設された発電所では、鉄が貴重で高価であったことから、鉄筋コンクリート部材の鉄筋量が極めて少ないことに大変驚きました。主機(水車・発電機)の改修工事では、主機を支えている構造体をできるだけ残すよう意識しつつ、現在の厳しい設計荷重に耐えられるよう補強、改修を行いました。この現場で、資材の乏しい時代に活躍した土木技術者のコストを意識した工夫に触れ、『土木のコスト意識の大切さ』を学びました。 60才の定年退職後、シニア身分となってからは、フライアッシュ(石炭火力発電所の副産物)(※2)と福井港の浚渫砂(九頭竜川からの流砂)(※3)を有効利用したコンクリートの製造を目的に、電力会社、北陸の大学・高専の学識経験者、国土交通省、福井県、コンクリート関連会社との産学官連携の研究に携わりました。 この業務では、『土木の循環型社会構築の精神』を学びました。このコンクリートには電気炉酸化スラグが必要で、それを求めて大谷製鉄鰍訪問したことがあります。 大谷製鉄に再就職し、今思うこと 50代後半で下肢障害となり、身体を鍛え直そうと決心し、電力会社を61才で退職しました。スポーツジムに通い、プールや筋トレ等のリハビリに専念し、体の回復を実感した頃から、また働きたいという思いが沸きあがり、再就職先を探す中、以前に訪問し好印象を持った大谷製鉄を希望したのです。今年4月末にパート社員として採用して頂き、8月からは技術顧問に任命して頂きました。
若い頃は、登山が趣味で多くの山々を登りました。自然が好きになり、平成20年に富山県のナチュラリスト(自然解説員)の資格も取得しました。立山室堂や称名滝で、一般の方に自然解説することを楽しみにしていましたが、叶わぬ夢となり意気消沈していました。 しかし今、大谷製鉄に再就職して思うことは、障害を持った体でありながらも働けることの喜びです。気がつけば、土木材料の「鉄筋」(実際は鉄筋タグ)と触れ合っています。今も「土木」に関われることに幸せを感じています。 そのきっかけを与えてくださった大谷製鉄鰍ノ感謝! ※1 配筋図とは 鉄筋コンクリート構造物において、鉄筋の位置、直径、寸法等を表した図面。 ※2 フライアッシュとは 石炭を燃焼させた時に発生する石炭灰のうち、電気集塵機により捕集される微粉末の灰のこと。 ※3 浚渫砂とは 海底・河床等から、水深を深くするために掘削する時に出る土砂のこと。